燃焼の三要素と消火の三方法・四方法

燃焼の三要素は ①可燃物 ②酸素(酸化剤) ③熱源(点火源)の3つです。したがって、このうちいずれか1つを絶てば燃焼は止まります

消火の三方法(=三原則)は次の通り。

  • 冷却:水などで温度を下げ、着火点未満にする。
  • 窒息:泡・二酸化炭素等で酸素を遮り、燃焼面を覆う。
  • 除去:可燃物や点火源を取り除き、燃焼条件を断つ。

これに加え、燃焼の連続する化学反応(連鎖反応)を抑える方法があります。これを抑制効果(負触媒効果)といい、消火の四方法とするときの4つ目に数えます。代表例:ハロゲン化物消火剤、粉末(炭酸水素塩系)など。

用語メモ:触媒は化学反応の速さを変えるが自らは変化しない物質。反応を遅くするものを負触媒という。

除去効果による消火(除去消火法)

除去消火は、燃焼に必要な条件のうち、とくに可燃物(可燃性蒸気を含む)供給源を取り除いて、燃焼を成り立たなくする方法です。燃える材料そのものや、燃料の流れ・可燃性ガスの発生を断ちます。

身近な例として、ロウソクの炎を息で吹き消す方法があります。息を吹きかけることで火炎近傍の可燃性蒸気を吹き払い、燃焼条件を断つため消火できます。

また、燃焼しているガスコンロの元栓やバルブを閉めると、燃料ガスの供給が絶たれ、火は消えます。これは燃料供給源の除去による消火です。

実務では、油の流出火災で流出を停止する、可燃物を安全な場所へ搬出する、可燃性ガスの滞留場所を換気する、といった操作も除去効果に含まれます。

学習メモ:除去は「燃えるもの(可燃物・可燃性混合気)」や「その供給」を断つのが中心です。抑制(負触媒効果)は別の方法(四方法の4つ目)ですので、用語を混同しないようにしてください。

窒息効果による消火(窒息消火法)

窒息消火は、燃焼に必要な酸素の供給を遮断し、燃焼面を空気から隔てることで消火する方法です。炎の周囲を不燃性の物質で覆い、酸素濃度を低下させます。

代表例として、燃焼物を泡(フォーム)二酸化炭素(CO₂)、窒素などの不燃性ガスで覆います。泡は油面を覆って空気との接触を断ち、CO₂・窒素は燃焼域の酸素濃度を下げます。アルコールランプにふたをする、たき火に砂をかけるといった身近な方法も、窒息効果による消火です。

空気中の酸素濃度は約21 vol%です。一般に石油類は、周囲の酸素濃度が約14〜15 vol%以下になると燃焼が持続できず、消炎します。

粉末消火剤は油火災に対して強い消火力を示します。粉末が油面を覆うことで窒息効果が働くほか、炭酸水素塩系などは燃焼の連鎖反応を抑制する効果(抑制効果)も併せ持ちます。

学習メモ:窒息は「酸素を断つ」方法です。泡=油面を覆う、CO₂=酸素濃度を下げる、砂=物理的に覆う、と覚えると整理しやすいです。CO₂は密閉空間での使用に注意が必要で、再着火防止のためには熱源の除去(冷却)も重要です。

冷却効果による消火(冷却消火法)

冷却消火は、燃焼物から熱を奪って温度を下げ、引火点または発火点未満にすることで燃焼の継続を止める方法です。代表的な消火剤はで、比熱と気化熱が大きく、効率よく温度を低下させます。

とくに固体の火災では、加熱により熱分解が進むと可燃性ガス・蒸気が生成され、燃焼が継続します。冷却により熱分解を抑え、可燃性ガスの発生を減らすことで消火します。

実務上は、散水・流水・噴霧(水ミスト)などで燃焼面と周囲の温度を下げることが有効です。粉末やCO₂など他の消火剤でも一部に冷却効果はありますが、主作用は別(窒息・抑制)である点を区別して覚えると混同しません。

試験・安全メモ:水による冷却は有効な場面が多い一方で、電気火災(感電・機器損傷のおそれ)、油火災(飛散・拡大のおそれ)、活性金属火災(ナトリウム等とは激しく反応)には不適です。用途適合の確認が重要です。

火災の区分

火災は、主に燃焼物の種類や性状(それに応じた消火剤の適否)から、次のように区分します。

火災の区分
火災の区分 概要
A火災(普通火災) 紙・木材・布・繊維類などの固体が燃焼する火災です。
B火災(油火災) ガソリン・灯油・軽油・アルコール類・食用油などの可燃性液体が燃焼する火災です。
C火災(電気火災) 電気設備または通電中の機器(配線・変圧器・モーター等)に起因する火災です。

消火剤の分類と消火効果

消火剤には、水消火剤強化液消火剤泡消火剤ハロゲン化物消火剤二酸化炭素(不活性ガス)消火剤粉末消火剤金属火災用消火剤などがあります。

水消火剤

水は比熱蒸発熱(気化熱)が大きいため、冷却効果に非常に優れています。このため、普通火災(A火災)に広く使用されます。

水は蒸発すると体積が約1,700倍になります。この水蒸気により、燃焼域の酸素や可燃性ガスが希釈される作用も期待できます。

一方で、油火災(B火災)電気火災(C火災)には原則として使用できません。油は水より軽く水上に広がるため、水をかけると飛散・拡大するおそれがあります。また水は導電性があるため、通電中の機器に用いると感電の危険があります。

ただし、専用の水噴霧(水ミスト)設備や水蒸気を用いる場合は、微細な粒子が均一に広がることで冷却・希釈が働き、一部の油火災や電気設備火災に適用されることがあります。適用可否は設備の規格・設置条件に依存しますので、一般の水消火器とは区別して学習してください。

※詳しくは「第1章:消火設備と設置基準」を参照してください。

強化液消火剤

強化液消火剤は、水にアルカリ金属塩(炭酸カリウム)を加えた濃厚な水溶液で、アルカリ性を示します。-20℃でも凍結しないため、寒冷地でも使用できます。

この消火剤は、冷却効果と燃焼を科学的に抑制する効果(負触媒効果)を備えています。

普通火災に対しては冷却効果が大きく、また水溶液で浸透性があることから再燃防止効果もあります。

油火災及び電気火災には、噴霧状に放射することで適応します。また、油火災に対しては抑制効果が大きいです。

泡消火剤

泡消火剤には、一般泡水溶性液体用(耐アルコール泡)の2種類があります。

一般泡は、普通火災に対しては冷却窒息で消火します。油火災に対しては、油面を泡で覆って空気を遮断する窒息効果により有効です。

水溶性液体用(耐アルコール泡)は、アルコールなどの水溶性可燃液体に対して泡が溶解・破壊されにくい組成で、同様に表面を覆って窒息させます。

泡消火器は、泡の作り方の違いにより次の2タイプがあります。

泡消火器のタイプ
泡消火器のタイプ 泡の作り方の違い
化学泡タイプ 薬剤の化学反応で生じた二酸化炭素を泡として包み込みます。
※充填された水溶液の有効期限は1年とされ、再充填などの整備・点検が必要です。
機械泡
(空気泡)タイプ
ノズル等で空気を混入して機械的に泡を作ります。

学習メモ:泡=「表面を覆って酸素を遮断」が基本です。水溶性液体には耐アルコール泡を用いる点を押さえます(一般泡は溶けてしまいます)。

泡消火設備(第3種)で使用される泡消火剤には、たん白泡フッ素たん白泡水成膜泡(AFFF)合成界面活性剤泡などがあります。 たん白泡は起泡性と保水性・耐熱性に優れており、フッ素たん白泡は特に耐熱性に非常に優れます。 起泡性(発泡性)は水成膜泡・合成界面活性剤泡が非常に優れます。

たん白泡・フッ素たん白泡消火剤は暗褐色の粘性溶液で、たん白特有の臭気があります。 水成膜泡・合成界面活性剤泡消火剤は淡黄色の液体で、グリコールエーテル臭があります。

泡消火剤の種類と特性
種類 起泡性・発泡性 安定性・保水性 展開性・流動性 耐熱性・耐火性 耐油性 油面密封性
たん白泡
フッ素たん白泡
水成膜泡(AFFF)
合成界面活性剤泡 ×××

◎ 非常に優れている
○ 優れている
△ 普通
× 劣る

また、合成界面活性剤泡は起泡性に優れるため、高発泡としての使用に適しています。高発泡で使用する場合は、高発泡専用の放射ノズル等を使用します。

泡の膨張倍率と用途
種類 用途
低膨張泡
(倍率20以下)
泡の流動性に優れ、主として可燃性液体の流出火災タンク火災に用います。
中膨張泡
(倍率20超〜80未満)

高膨張泡
(倍率80以上〜1000未満)
防護対象の表面を一気に被覆したり、対象の空間を泡で充満させて、燃焼を抑制する用途に用います。

発泡倍率とは、生成された泡の体積 ÷ 原液(水溶液)の体積をいいます。

一般の泡消火剤は、アルコールなどの水溶性可燃性液体に触れると泡が溶解してしまいます。したがって、これらの消火には適しません。そこで用いるのが、水溶性液体用泡消火剤(耐アルコール泡)で、アルコールやアセトン等の消火に適しています。

一般的に泡消火剤に求められる性質は、①流動性・展開性があること、②耐油・耐火・耐熱性があること、③寿命が長いこと、④持続安定性があること、⑤起泡性(泡立つ性質)と付着性が十分であること、などです。

なお、泡消火剤は電気火災には使用できません。感電の危険があるためです。

ハロゲン化物消火剤

ハロゲン化物消火剤は、代表例として一臭化三フッ化メタン(CBrF3(ブロモトリフルオロメタン、いわゆるハロン1301)が用いられてきました。ハロゲン化物は、燃焼の連鎖反応(ラジカル反応)を抑える作用があり、抑制効果(負触媒効果)によって消火します。

消火作用は主に抑制効果で、状況によっては燃焼域の酸素濃度が下がることによる窒息効果も併せて働きます。

ハロゲン化物消火剤は気体で放射するため汚損が少ないことが特長です。油火災(B)や電気火災(C)に対して有効ですが、普通火災(A)に対しては効果が相対的に薄い傾向があります。

一方で、火災などで高温にさらされると分解し、ホスゲン(COCl2フッ化水素(HF)、その他の有毒ガスを生じるおそれがあります。使用後は換気や安全確保が必要です。

学習メモ:ハロン(ハロゲン化物)は設備・携行器で広く使われましたが、環境規制により製造・新設が制限され、現在は代替のクリーン消火剤(HFC系やFK系など)へ移行が進んでいます。試験では「抑制効果が主作用/B・Cに有効/汚損が少ない/高温分解で有毒ガス」を確実に押さえます。

二酸化炭素(不活性ガス)消火剤

二酸化炭素(CO₂)消火剤は、加圧して液化した状態で容器に充填されます。経年による変質が少ないため、長期間安定して使用できます。

放射すると直ちに気化し、CO₂は空気より重い(相対密度約1.53)ため燃焼域を覆います。主作用は窒息効果で、気化時の冷却効果も一部に働きます。

燃焼域の酸素濃度がおおむね14〜15 vol%以下になると、燃焼は継続できずに停止します。

CO2非導電性で、電気設備に対して電気絶縁性が良好です。また金属や電気機器と化学反応を起こしにくく、気体のため細部まで行き渡り、消火後の汚損が少ないという利点があります。

一方で、CO2毒性は弱いものの、高濃度では酸素欠乏を招くおそれがあります。閉鎖空間での放出時は速やかに退室し、酸欠事故防止措置を徹底します(不活性ガス消火設備〈第3種〉の運用基準に従います)。

不活性ガス消火設備(第3種)には、CO2のほか窒素(N2IG-541(N2・Ar・CO2の混合)、IG-55(N2・Arの混合)なども用いられます。

ハロゲン化物消火剤と同様に、油火災(B)および電気火災(C)に対して有効ですが、普通火災(A)に対しては相対的に効果が薄い傾向があります。

粉末消火剤

粉末消火剤は、主成分の違いにより複数の種類があります。共通する特長は次のとおりです。

① 粉末は吸湿・固化を防ぐため、粒子表面をシリコーン樹脂等で防湿処理しています。これにより微粉末の状態を保ちます。また、粒径が小さいほど比表面積が大きくなり、一般に消火効果が高まりやすくなります

② 種類を識別しやすいように、主成分ごとに着色されています(代表例は下表のとおりです)。

粉末消火剤の種類
主成分 着色(代表例)
炭酸水素ナトリウム 白色・淡緑色
炭酸水素カリウム 紫色
リン酸塩類 等 淡紅色

③ 粉末消火剤は、燃焼の連鎖反応を化学的に抑える抑制効果(負触媒効果)が大きく、さらに燃焼面を覆うことによる窒息効果も併せて働きます。

油火災(B)電気火災(C)に適応します(粉末は電気の不導体です)。

リン酸塩類(例:リン酸二水素アンモニウム)を主成分とする粉末消火剤は、木材などの普通火災(A)にも適応します。B・Cに加えてAにも適応することから、これを充填したものはABC消火器と呼ばれます。

炭酸水素塩類(例:炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム)を主成分とする粉末は、B・C火災に適応し、A火災には不適応です。

炭酸水素カリウム(KHCO3)は無色固体で、水溶液は弱い塩基性を示します。加熱により二酸化炭素を放出して炭酸カリウム(K2CO3となります。これを主成分とする粉末は、他剤と識別しやすいよう紫色に着色するように定められています。

炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)は白色粉末で、水溶液は弱い塩基性を示します。加熱により炭酸ナトリウム(Na2CO3二酸化炭素(CO2水蒸気(H2O)に分解します(いわゆる重曹です)。

簡易消火用具

簡易消火用具とは、消火能力のある水・砂・粉状物と、それらを使用するバケツ等の用具をいいます。 具体例は水バケツ乾燥砂膨張ひる石(蛭石)膨張真珠岩(パーライト)などです。

乾燥砂・膨張ひる石・膨張真珠岩は燃焼面を覆って酸素供給を遮断(窒息効果)し、初期消火に有効です。

金属火災用消火剤

金属火災は、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛などの金属が対象です。

金属火災は非常に高温で、通常の消火剤は熱分解して使用できません。とくにアルカリ金属などに注水すると、水と激しく反応して水素を発生し、爆発の危険があります。

従来は乾燥砂等が広く用いられてきましたが、現在は金属火災専用の消火剤の使用が一般的になっています。

金属火災用消火剤には、乾燥炭酸ナトリウム粉末乾燥塩化ナトリウム粉末などがあります。塩化ナトリウム系では、架橋剤や流動化剤を添加しており、燃焼物表面を覆うと架橋・固化して「せんべい状」の被覆層を形成し、酸素を遮断して窒息効果熱遮断により消火します。

学習メモ:金属火災=水・泡・CO₂は原則不適。専用粉末で覆蓋(覆って蓋)・窒息・熱遮断が基本、と整理して覚えます。

水系消火器(まとめ)

水系消火器の比較表(消火器・消火剤・形状・適応火災・主な消火効果)
消火器 消火剤 形状 適応火災 主な消火効果
水消火器 棒状 普通火災 冷却
霧状 普通火災・電気火災 冷却
強化液消火器 アルカリ金属塩類の水溶液 棒状 普通火災 冷却
霧状 普通火災・油火災・電気火災 冷却・抑制
泡消火器 一般の泡消火剤 普通火災・油火災(非水溶性) 冷却・窒息
水溶性液体用(耐アルコール)泡消火剤 水溶性可燃液体(アルコール等) 冷却・窒息

水系消火器以外(まとめ)

水系消火器以外の比較表(消火器・消火剤・適応火災・主な消火効果)
消火器 消火剤 適応火災 主な消火効果
ガス系消火器 ハロゲン化物消火剤 油火災・電気火災 抑制(主)・窒息
二酸化炭素 油火災・電気火災 窒息(主)・冷却
粉末系消火器 リン酸塩類 普通火災・油火災・電気火災(ABC) 抑制・窒息
炭酸水素塩類 油火災・電気火災(BC) 抑制・窒息
金属火災用消火器 乾燥炭酸ナトリウム(無水) ナトリウム 窒息・熱遮断
乾燥塩化ナトリウム リチウム・マグネシウム 窒息・熱遮断

クイズ

B火災に該当するのは、次のうちどれか。

次は第2章9節:電気の計算/電池に進みます。

電気の計算/電池