第2石油類
第2石油類とは、常圧(1気圧)において引火点が21℃以上70℃未満の液体をいいます。
代表例として、灯油・軽油・キシレンなどの非水溶性のものと、酢酸などの水溶性のものがあります。
灯油
無色~淡黄色(経年で黄褐色になることあり)。特有の臭気を有します。
灯油の物理的性質
| 性質 |
代表値 |
| 比重 |
約0.8 |
| 沸点 |
145℃〜270℃ |
| 引火点 |
40℃以上 |
| 発火点 |
約220℃ |
| 燃焼範囲 |
1.1 ~ 6.0 vol% |
| 蒸気比重(空気=1) |
4.5(空気より重い) |
※ 製品・測定条件で前後します。本表は試験対策上の代表値です。
灯油の性質と取り扱い上の注意
| 灯油の性質と注意点 |
| ① 灯油にガソリンを混合してはいけません。引火点が大きく低下し、極めて引火しやすくなります。 |
| ② 灯油を霧状(ミスト)や薄い膜にすると、空気との接触面積が増え着火しやすくなります(噴霧・雑巾への広がりに注意)。 |
| ③ 灯油は電気不導体で、移送・小分け時の流動で静電気が発生しやすい。容器間のアース・ボンディングで放電対策を行うこと。 |
| ④ 灯油は水に不溶・水より軽いため水面に浮く。放水消火は拡散の危険があるので禁物(冷却のための霧状水は可)。 |
| ⑤ 有効な消火剤は泡(フォーム)・粉末・二酸化炭素。表面を覆って窒息・遮断することが要点。 |
| ⑥ 灯油の蒸気は空気より重いため、低所に滞留しやすい。床面近くの換気・ドレン・ピット周りの着火源管理が重要。 |
| ⑦ 保管は密栓・冷暗所・換気良好・火気厳禁で行う。加熱器具への給油は完全消火・十分冷却後に実施する。 |
| ⑧ 専用・導電性の容器を用い、注入口に金属接触させて静電気を逃がす。こぼれは直ちに拭き取り、廃布は密閉容器へ。 |
| ⑨ 誤給油防止(ガソリンとの取り違え)に注意。表示の明確化・専用ポリ缶使用・小分け時のラベル徹底。 |
軽油
精製直後は無色であるが、出荷前に精製会社により淡黄〜淡褐色や薄緑色に着色されていることがあります。
石油臭があります。
軽油の物理的性質
| 性質 |
代表値 |
| 比重(20℃) |
約0.85 |
| 沸点 |
170℃〜370℃ |
| 引火点 |
45℃以上 |
| 発火点 |
約220℃ |
| 燃焼範囲 |
1.0〜6.0vol% |
| 蒸気比重 |
約4.5(空気より重い) |
※ 製品や測定条件で前後します。試験対策上の代表値を記載。
軽油の性質と取り扱い上の注意
| 軽油の性質と注意点 |
| ① 軽油に第1類(酸化性固体)を接触させたり、第6類(酸化性液体)を混入してはいけません。強い酸化作用で発熱・発火のおそれ。 |
| ② 軽油は電気不導体で、移送・小分け時に静電気が発生しやすい。容器間のアース/ボンディングで放電対策を行う。 |
| ③ 霧状(ミスト)や薄膜になると空気との接触面積が増え着火しやすくなる(噴霧・ウエス広がりに注意)。 |
| ④ 水に不溶・水より軽いため水面に浮く。放水直噴は拡散の危険(冷却は霧状水、消火は泡・粉末・CO₂が有効)。 |
| ⑤ 蒸気は空気より重いため低所滞留。床面近くの換気、ピット・側溝周りの着火源管理を徹底。 |
| ⑥ 保管は密栓・冷暗所・換気良好・火気厳禁。給油はエンジン停止・完全消火・十分冷却後に行う。 |
| ⑦ 専用(導電性)容器を使用し、注入口で金属接触させて静電気を逃がす。こぼれは直ちに拭き取り、汚染物は密閉容器で保管・処理。 |
| ⑧ 誤給油防止(灯油・ガソリンとの取り違え)を徹底。明確な表示・色分け容器・小分け時のラベリングを行う。 |
| ⑨ 漏えい時は下流・低所への広がりを防ぐため防油堤・吸着材で囲い、側溝・排水路への流入を防止(環境汚染対策)。 |
キシレン(C6H4(CH3)2)
無色で、芳香族特有の臭いがあります(o-/m-/p-の異性体あり)。
キシレンの物理的性質
| 性質 |
代表値 |
| 比重(20℃) |
約0.86~0.88 |
| 沸点 |
約138~144℃(異性体により差) |
| 引火点 |
約30℃(第2石油類) |
| 発火点 |
約460~465℃ |
| 燃焼範囲 |
約1.0~7.0 vol% |
| 蒸気比重(空気=1) |
約3.7(空気より重い) |
キシレンの性質と取り扱い上の注意
| キシレンの性質と注意点 |
| ① 3種の異性体(オルト・メタ・パラ)がある(物性は概ね類似、沸点にわずかな差)。 |
| ② 水に不溶で水より軽く水面に浮く。一方、有機溶媒(エタノール・エーテル等)に可溶。 |
| ③ 蒸気には有害性(頭痛・めまい等の中枢神経抑制)。換気徹底、長時間作業では保護具の選定。 |
| ④ 第2石油類で引火点≈30℃。蒸気は空気より重く低所滞留→床面・ピット・側溝の着火源管理と換気が重要。静電気対策(アース/ボンディング)を行う。 |
| ⑤ 放水直噴は拡散の危険(浮いて流出)。泡(フォーム)・粉末・CO₂が有効。容器冷却は霧状水で。 |
| ⑥ 酸化剤との接触厳禁(濃硝酸・過マンガン酸塩等)。火気厳禁、防爆型機器・静電気対策を施し、密栓・冷暗所・換気良好な場所に保管。 |
| ⑦ 漏えい時は吸着材で囲い込み、排水路へ流入防止。付着布は密閉容器で一時保管。取扱いは耐溶剤手袋・保護眼鏡を着用。 |
クロロベンゼン(C6H5Cl)
無色の液体で、特徴的な芳香族臭があります。
クロロベンゼンの物理的性質
| 性質 |
代表値 |
| 比重(20℃) |
約1.10(水より重い) |
| 沸点 |
約132℃ |
| 引火点 |
約28℃(第2石油類) |
| 発火点 |
約464℃ |
| 燃焼範囲 |
約1.3 ~ 10 vol% |
| 蒸気比重(空気=1) |
約3.9(空気より重い) |
クロロベンゼンの性質と取り扱い上の注意
| クロロベンゼンの性質と注意点 |
| ① 水に不溶。アルコール・エーテル等の有機溶媒に可溶。液体の比重は1.1(約)で水より重いため、漏えい時は水中で下層にたまりやすい。 |
| ② 蒸気は空気より重い(蒸気比重≈3.9)ため低所滞留。ピット・側溝・地下室では換気徹底と着火源管理が必須。 |
| ③ 第2石油類(引火点≈28℃)で可燃。液体は電気不導体のため、移送・小分け時は静電気対策(アース/ボンディング)を行う。 |
| ④ 放水直噴は拡散の危険(下層流動で広がる)。消火は泡(フォーム)・粉末・CO₂が有効。容器冷却は霧状水で行う。 |
| ⑤ 酸化剤(第1類・第6類)との接触厳禁。強い酸化で発熱・発火のおそれ。火気厳禁・防爆型機器の使用。 |
| ⑥ 漏えい時は吸着材や防油堤で囲い、排水路・下水への流入防止。水より重いため低部・下流へ移動しやすい点に留意。 |
| ⑦ 健康影響:蒸気の吸入で頭痛・めまい(中枢神経抑制)、皮膚の脱脂。取扱いは換気・耐溶剤手袋・保護眼鏡・必要に応じ有機ガス用防毒マスク。 |
| ⑧ 保管:密栓・冷暗所・換気良好・火気厳禁。耐溶剤容器を用い、明確な表示(ラベル)と誤混入防止を徹底。 |
| ⑨ 燃焼時に有害ガス(HCl等)を生成しうる。風上待避・呼吸保護・周囲への拡散抑制を意識して対応。 |
ブタノール(CH3(CH2)3OH)
無色で、やや刺激性のある発酵様の臭いがあります。
ブタノールの物理的性質
| 性質 |
代表値 |
| 比重(20℃) |
約0.81 |
| 沸点 |
約117~118℃ |
| 凝固点(融点) |
約-89℃ |
| 引火点 |
約35℃(アルコール類) |
| 発火点 |
約343℃ |
| 燃焼範囲 |
約1.4~11.2 vol% |
| 蒸気比重(空気=1) |
約2.6(空気より重い) |
ブタノールの性質と取り扱い上の注意
| ブタノールの性質と注意点 |
| ① 4種の異性体(1-/2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール)。本節は1-ブタノール(n-ブチルアルコール)。 |
| ② 消防法:第4類 第2石油類(引火点≈35℃)。アルコール類ではない(アルコール類は炭素数1~3)。 |
| ③ 水にやや溶ける(部分溶解)/多くの有機溶媒に可溶。漏えい時は吸着材で回収し、排水系への流入防止を徹底。 |
| ④ 蒸気は空気より重く、低所滞留。ピット・側溝・床面近くの換気と着火源管理を厳格に。 |
| ⑤ 流動・小分け時に静電気が発生しうる。金属接触(ボンディング)と容器のアースで放電対策。 |
| ⑥ 消火:泡(フォーム)、粉末、CO₂が有効。霧状水は冷却・希釈目的で使用(直噴は拡散の恐れ)。※泡の種類はSDSの推奨に従う。 |
| ⑦ 酸化剤との接触厳禁。加熱・燃焼時に有害性ガスを生じるおそれ→風上待避と適切な呼吸保護。 |
| ⑧ 健康影響:蒸気・ミスト吸入で中枢神経症状(頭痛・めまい等)、皮膚の脱脂・刺激。換気徹底、耐溶剤手袋・保護眼鏡等を着用。 |
| ⑨ 保管:密栓・冷暗所・換気良好・火気厳禁。明確な表示で誤混入・誤使用を防止。 |
酢酸(CH3COOH)
無色で刺激臭をもつ弱酸。
酢酸の物理的性質
| 性質 |
代表値 |
| 比重(20℃) |
約1.05 |
| 沸点 |
約118℃ |
| 凝固点(融点) |
約16.6~16.7℃ |
| 引火点 |
約39~40℃ |
| 発火点 |
約430~485℃ |
| 燃焼範囲 |
約4.0~19.9 vol% |
| 蒸気比重(空気=1) |
約2.1(空気より重い) |
酢酸の性質と取り扱い上の注意
| 酢酸の性質と注意点 |
| ① アセトアルデヒドの酸化で得られる代表的な有機酸(工業的製法の一例)。 |
| ② 純度約99%のほぼ無水の酢酸は 16.6~16.7℃で固化し、氷酢酸と呼ばれる(17℃付近で結晶化)。 |
| ③ 強い腐食性を持つ水溶性の酸。コンクリートを腐食し、多くの金属(Zn, Fe, Mg 等)を腐食して水素を発生する(アルミニウム(Al) は酸化皮膜で耐食性が比較的高い)。 |
| ④ アルコールと反応して酢酸エステル(CH3COOR)を生成。代表例:酢酸エチル(CH3COOC2H5)。 |
| ⑤ 食酢は酢酸約4~6%の水溶液(本教材では化学品としての酢酸を扱う。飲用用途と混同しない)。 |
| ⑥ 第2石油類(水溶性)で可燃。引火点≈39~40℃。蒸気は空気より重く低所に滞留しやすい → ピット・側溝の換気/着火源管理が重要。 |
| ⑦ 静電気対策:水系で導電性はあるが、移送・小分け時はアース/ボンディングを実施。容器は腐食に強いステンレス・ガラス等を用いる。 |
| ⑧ 消火:耐アルコール泡(AR 系)・粉末・CO₂が有効。霧状水は冷却・希釈に使用(直噴は拡散の危険)。 |
| ⑨ 不適合物:強酸化剤(発熱・暴走の危険)、強塩基(発熱反応)。混合禁止・区分保管を徹底。 |
| ⑩ 健康影響:蒸気/ミストの吸入で刺激・咳嗽、皮膚・眼に強い刺激/腐食。取扱いは換気徹底、耐酸手袋・保護眼鏡/フェイスシールド・必要に応じ有機ガス用防毒マスクを使用。 |
アクリル酸(CH2=CHCOOH)
無色で、酢酸に似た刺激臭をもつ。
アクリル酸の物理的性質
| 性質 |
代表値 |
| 比重(20℃) |
約1.05 |
| 沸点 |
約141℃ |
| 融点 |
約13~14℃ |
| 引火点 |
約48~55℃ |
| 発火点 |
約395~438℃ |
| 燃焼範囲 |
約3.9~19.8 vol% |
| 蒸気比重(空気=1) |
約2.5(空気より重い) |
アクリル酸の性質と取り扱い上の注意
| アクリル酸の性質と注意点 |
| ① 水・アルコール・エーテルなどと任意割合で混和する(水溶性)。 |
| ② 非常に重合しやすいため、重合防止剤(例:MEHQ等)を添加して貯蔵する。阻害剤は酸素存在下で効果が発現する点に留意。 |
| ③ 重合を促進する条件:加熱・光、酸化性物質・過酸化物・塩基、金属塩/鉄さび等との接触・混触。局所加熱や停滞部の発熱に注意。 |
| ④ 融点が約13~14℃で凝固しやすい。融解時の過加熱は重合暴走・引火の危険 → 凝固させない保管と、融解時の緩やかな昇温・撹拌を徹底。 |
| ⑤ 強い刺激性/腐食性。皮膚・眼の化学熱傷、蒸気/ミスト吸入で粘膜刺激・咳嗽。適切なPPE(耐薬品手袋・保護眼鏡/フェイスシールド・防護衣)・換気を確保。 |
| ⑥ 第2石油類(水溶性)で可燃。引火点≈50℃、蒸気は空気より重いため低所滞留 → ピット・側溝周りの換気/着火源管理が重要。 |
| ⑦ 静電気対策:移送・小分け時はアース/ボンディングを実施。配管・ホースの導電連続性を確保し、急速充填を避ける。 |
| ⑧ 不適合物:強酸化剤・過酸化物・強塩基・アミン類・金属塩/さび。混合禁止・区分保管。 |
| ⑨ 容器・設備材質:ステンレス鋼(SUS304/316)、ガラス/ガラスライニング、HDPE等の耐薬品プラスチック。銅・銅合金などは避ける。 |
| ⑩ 消火:耐アルコール泡(AR系)・粉末・CO₂が有効。霧状水は冷却・希釈用(直噴は拡散の危険)。容器は周囲から冷却。 |
次は第3章10節:第3石油類の性状に進みます。